荒木太郎監督『さかり新妻 刺激のほてり』
　（初公開題：人妻悲恋 巨乳みだれ泣く／2009年）
京都ほんまち館 2020年１１月６日(金)～１２日(木)上映


「人妻悲恋 巨乳みだれ泣く」 文：荒木太郎

　このコロナ禍、苦境に喘ぐ成人映画館。しかしそれでも頑張る映画館。という話を聞くと、つい何とかできないかと腰を浮かせてしまってから、ふと我に返る。ああそうだ、今私は、故なき故あり、成人映画館を素直に応援しづらい立場にあるんだった。
そして今年、私のある文章に時期合わせるように、今年三月いっぱいで金沢駅前シネマも閉館してしまった。お別れのために閉館二日前に金沢に行った。しかし映画は生きている。映画館で上映してくださる限り。人々の記憶にある限り。私は一つの区切りのために本年一月発売の｢映画芸術｣誌に【「ピンク映画」は終わった】という文章を書きました。しかし私の大切にしていた「ピンク映画」は終わったにしても、それでも収まり切れないことがあるようです。今回上映してくださる、「人妻悲恋 巨乳みだれ泣く」はまさに収まり切れない記憶の物語です。記憶に残る女の人、厄介だが、美しく、たくましく、弱すぎる。そんな女性に惹かれた、思いの映画なのです。

　この映画のきっかけは、撮影半年前にある人にある女性を紹介して頂いた時に遡ります。この人はある種の夢と絶望を与える役ができる人だと印象を持ちました。それは一方的な勘違いかもしれませんが、映画は勘違いからの発見もあるようです。少々能天気な点もある私にとっては幸福な勘違いがこの時起こりました。
珍しく順調に撮影準備が進んでいたのですが、インの二週間前に突然紹介してくれた人からもう一度女性に会ってくれないかと言われました。会って出演の確認は頂き一安心はしたのですが、どうも釈然としないし、印象も同一人物かと思うくらい違う。悪い予感は当たり、イン一週間前にその女性が消えました。
消えてしまっては仕方ない。インも公開も決まっているので考える間も感傷もなく早速代わりを探し、皆さんの協力でできたのが同作ですが、こういう、イメージしていた女性から作られた物語は、本人がいなくなると、苦戦することが非常に多い。出演してくださった方は映画初にも拘らず度胸をもってやっていただき映画初出演としては好評でしたが、いくら力で見せても空回りする点が多く大変だったのではないかと想像します。私も苦戦したが戦い抜いた記憶があります。但し今思うところでは寧ろ夢の物語の夢を残すことで、もっと大きな夢を作ることが出来る機会をいただきました。
消えてしまった女性はこの映画の主人公のようにどこで生きているのかどうなっているのか知る由もありません。私に印象を残してくれたあの人は思い違いではなく、この映画の主人公のようなそんな夢と絶望の人だったのかもしれません。ほとんど会話もなかったので思い入れはないが裸の仕事をしている人の儚さは感じざるをえない。夢は夢として残しておいたほうが、次の大きな夢につなげることができる。

　今私は二つの懸案を抱えています。一つは言わずもがなの闘い、もう一つは新作映画公開で、それらは近いうちに御報告できると思いますが、そのあとにある大きな夢を「人妻悲恋 巨乳みだれ泣く」に見つけてください。私はこの映画の試写の後、大方満足してくださっていた初担当者Ｔさんに、もう一度作らせてくださいと、お願いしました。初めてのことです。その記憶が蘇ってきました。
こんな文章を頼まれると書いてしまうこと自体やはり私の「ピンク映画」は終わったようで終わっていないようです。
11月6日(金)から12日(木)まで。京都ほんまち館へ、どうか足をお運びください。